『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 嬉しかった。自分が好きな人に必要とされているという事実が。そして、同じくらいの想いを返していいと許されたことが。

 紗月は握られていた手をそっと動かし、膝の上に置いていたクラッチバックから一枚のハンカチを出す。淡いブルーのそれは、十年前に航生にもらったものだった。

「これ、覚えてる? 私の宝物なんだ。ずっと大事にしまってたんだけど、今日はお守りで持ってきたの。航生君の奥さんとしてしっかり役目が果たせるようにって」

 航生は息をのんで紗月の手元を見つめている。

 あのときと同じようにこうしてベンチに並んでいると、彼の生い立ちに涙した日が昨日のように思い出された。十年の歳月はふたりの立場や考え方を確実に変えてしまった。でも、お互いを想い合う気持ちは変わっていなかったのかもしれない。

「バーで話した初恋の人って、航生君のことだよ。最後は辛かったけど一緒にいた時間は宝物だったし、一度も嫌いになれなかった。それどころか今まで航生君以外の人、好きになれなかったの」

 航生のディープブラウンの瞳が大きく揺れ、夜の光を受けてきらりと反射した。
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