『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 あまりにあっさり言われて、鼓動が一気に跳ねる。

「さ、さっきまでそんな雰囲気、全然なかったのに……」

 吐息で甘く誘われたら、どう反応していいかわからない。頬を熱くしながら訴えると、背後でクスリと笑う気配がした。

「続きは帰ってからって言ったはずだけど? 意識しまくって空回りしてる紗月、かわいかったな」

「も、もう……意地悪!」

 紗月は肩をすっぽり包み込む彼の腕に、恨みがましく手を添え、指先で軽く力を込める。

「でも、そのおかげで、家に着くなり襲わないで済んだ」

「……襲いたかったの?」

 せめてもの意趣返しのつもりで、振り返らずに問いかける。背中越しに伝わる体温が、少しだけ上がった気がした。

「そうだよ。紗月のドレス姿があまりにも綺麗だったから、俺の手で脱がしたかった……でも、それはまた今度の楽しみに取っておく」

 耳元で囁かれた言葉自体は冗談めいているのに、本音が滲み出ている気がして、紗月の胸がじんわりと熱を帯びる。

「と、いうわけで、行こうか」

「きゃっ……」

 突然後ろから膝に手を回されたと思うと、体が宙に浮く感覚がした。

「やだ、重いよ!」
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