『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 航生に抱きあげられた紗月は、反射的に彼の首に手を回しながら声を上げる。

「重くなんてないよ。それにこうした方が、早く移動できる」

 航生はまったく危なげない足取りで、寝室に向かう。

 いわゆるお姫様抱っこでリアルに運ばれる日が来るとは思わなかった。しかも、この王子様のような男性に。

 寝室に入ると航生は慎重に紗月をベッドに横たえる。いつも彼と寝ているこのベッドが、今日は知らない場所のような気がしてきて、落ち着かない。

 照明を落とし、自らもベッドに乗り上げてきた航生は紗月の頬をゆっくり撫でる。おそらく紗月の気持ちが落ち着くのを待ってくれているのだろう。

「あの……嫌じゃないの……」

 彼に組み敷かれながら、紗月は情けない声を出す。ただ、恥ずかしいだけなのだ。

「初めてのときも恥ずかしがっていて、ものすごくかわいかった」

 航生は紗月の心を読んだように口の端をあげ、上半身を屈めた。

「あれを知っていて、毎日抱きしめて寝るだけなんて、拷問を受けているような気分だった」

「拷問……? ん……」

 首筋に唇を受けながら、紗月は吐息を漏らす。

「ああ。理性を総動員して、毎晩必死だったんだ」
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