『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
(まさか、お兄さんがペーパーカンパニーに資金を流出させてたなんてね……)

 航生と紗月、双方の情報の積み重ねにより、理仁を糾弾できる準備ができた。航生は資料を持って明日にでも社長に申告するつもりでいるらしい。そのための経理データをまとめたものを紗月は航生に手渡そうと思っていた。

 社内を揺るがしかねない機密中の機密資料だ。元データはオンライン上にのせず、パソコンのハードディスクに保管している。メールやチャットを使うのも怖かった。

(人のいない時間を見計らって打ち出して、さっと持っていこう)

 緊張しながら、パソコンを見つめているとチャットがさらに表示される。

《大須賀専務は、やけに紗月さんを目の敵にしているらしいので、気を付けてくださいね》

《でも、しばらく名古屋支社にいらっしゃるんですよね》

 土方からのメッセージにそう返す。

 ドイツから戻ってきてすぐ、理仁は社長から名古屋支社への異動を命じられた。その処遇に本人、そして彼の母は不満を漏らしていたと聞いている。

《そうなんですけど、念のため。それに最近あの人、情緒不安定だっていう噂もありますから》
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