『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
《ご心配ありがとうございます。わかりました》

《もしあなたになにかあったら、うちの室長、闇落ちしたアンドロイドみたいになって、この会社ごとぶっ壊しかねません》

(闇落ちしたアンドロイドって……土方さんって、ワードチョイスが独特だな)

《それは大変ですね。気を付けます》

 大げさな冗談にクスリと笑いながら、紗月は返信を打った。

 
「ちょっと、休憩してきますね」

 時刻は十六時五分前。寺西に声をかけた紗月はファイルに挟んだ資料を携えて、足早に上階にある役員フロアに向かった。
 エレベータを降りた静かなエリアは絨毯敷になっており、立ち並ぶドアも重厚だ。明らかに他のフロアとは空気が違い、一瞬進むのを戸惑う。

(えぇと、たしか奥から三つ目のドアだって土方さんが言ってたから、こっちでいいのかな)

 一度立ち止まった紗月が、廊下の奥に進もうとしたとき、背後に気配を感じた。

「なんで、君がこんなところにいるんだ」

 思い切り肩を揺らした紗月がガバリと振り返ると、至近距離に理仁が立っていた。

「お義兄さん……名古屋にいらしたんじゃ」
< 211 / 235 >

この作品をシェア

pagetop