『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 一番会いたくない相手と、最悪のタイミングで鉢合わせしてしまった紗月は、心臓をバクバクさせながら顔をひきつらせる。

 すると理仁は顔を軽く歪ませた。

「社長に直談判しに来たんだよ。『お前も航生みたいに、いろんな場所で経験した方がいい』なんて言って、やたら外に出そうとするからさ。正直、理解できなくてね。僕はあいつと違って、最初から結果を出せる人間だ。今さら外に行って学ぶ必要なんてないのに」

「そ、そうですか……」

 その考えには、まったく賛同しかねるが、ここはなんとか切り抜けて航生の元まで行きたい紗月は、言葉を濁しつつじりじりと後ろに下がる。

 すると、理仁の視線が紗月の胸元に下がったIDカードを捉えた。名前と所属部署を見て理仁は訝しげな表情になる。

「永井……紗月、経理部……まさか、航生に言われてなにか嗅ぎまわってるんじゃないだろうな」

 なんでそんなに勘が働くのだと天を仰ぎたくなる。誰か通りかかってほしいと願うが、フロアは静かなままだ。

「いえ、ただ私は経理部のお手伝いに……」

 誤魔化そうとした紗月に理仁が一歩近づき、持っていたファイルを強引に取り上げる。

「返してください!」
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