『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 慌てて取り返そうとする紗月に構わず、理仁はファイルを開き、次の瞬間、顔色を変えた。

 無理もない。そこには、彼の背任行為を裏づける数字のデータが、嫌というほど並んでいるのだから。

「クソッ」

 理仁は舌打ちをすると、紗月の腕を無理やり掴み、すぐ近くのドアを開いた。咄嗟に身を捩って抵抗するが、思いのほか力が強くそのまま室内に連れ込まれてしまう。

 部屋の中には、重厚な造りのデスクが中央に据えられ、その手前に応接セットが置かれていた。ここが理仁の専務執務室なのだろう。

「……まったくお前は昔から目障りなんだよ」

 重く閉じたドアを背に、理仁は低く声を漏らした。

 その表情はいつもの薄い笑いすら消えていて、陰鬱とした怒りに支配されているように見えた。

「よくもまあ、こんなに細かく調べ上げたものだね。それで、どうするんだ? これを航生に報告して僕をこの会社から追い出す?」

 開き直るような口調は、自ら罪を認めているのも同然だった。

「ふふ、それは無理だよ。このくらいの金額会社全体から見たらたいしたことない、お父さんとお母さんがなんとかしてくれる。だって、僕は正当な後継者なんだから」
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