『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
「僕が、不幸なわけないだろう!」

 さらに声を張り上げた理仁がこちらに向かってこようとしたとき、執務室のドアが勢いよく開いた。

「紗月!」

 執務室に飛び込んできたのは、航生だった。後ろには土方も控えている。

 航生は紗月に駆け寄ると、理仁から守るように立ち、心配そうな表情で肩越しにこちら振り返った。

「時間になっても来ないから心配になって廊下に出たら、大声が聞こえてきて……なにもされてないか」

「う、うん、大丈夫」

 緊張で張りつめていた肩の力が、嘘のように消えていく。

「大げさだな、偶然紗月ちゃんに会ったから、僕の執務室に呼んで少し話していただけだ。それと航生、この程度の流出で僕を追い詰めようとしたって無駄だよ」

 もう理仁は航生に対して取り繕うつもりはないようだ。あからさまな敵意を向けている。

「紗月ちゃんも、振り回されて大変だったろう。こそこそと人の弱みを探すことしか能の無い男なんて、見切りをつけたらどう?」

「私、航生君とは離れません」

 聞き捨てならない台詞に、紗月は航生の陰から一歩前に進み出た。
< 216 / 235 >

この作品をシェア

pagetop