『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 航生はしぶしぶといった様子で紗月の手を離す。指示にうなずくと、土方は足早に執務室を出ていった。

「父さんを呼んだって、意味がないよ」

 理仁は、イライラした様子でテーブルの上のファイルを指先で叩く。ほどなくして勝一が執務室に入ってきた。さらに後ろから入ってきたのはなんと典子だった。

「社長室を訪ねたら、奥様もいらっしゃったので。せっかくなのでお連れしました」

 土方がにこやかに言うと航生は口の端を上げてうなずく。

「手間が省けてちょうどいい」

「お母さん、なんで……」

 母の姿に、理仁の表情がわずかに曇った。

「あなたを本社に戻すように、この人に訴えに来たのよ。だって、うちでは碌に話も聞いてくれないから」

 部屋に航生と紗月がいるのに気づいた典子はあからさまに顔を歪ませて、応接用のソファーに座った。

 図らずしも、母と息子は同じ目的で本社を訪れていたらしい。

「それで、要件はなんなんだ」

 面倒そうな表情で、勝一もソファーに腰掛けた。

「はい、こちらをご確認いただけますか。大須賀専務がペーパーカンパニーからの架空の請求書に対して支払いを行っていた実績が記載されています」
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