『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 勝一が腕を組んだまま理仁をたしなめているのを見て、紗月は目を瞬かせた。これほどの不正を働いておきながら、口頭での注意だけで済むなど、あり得るのだろうか。

「はい、今後もご期待に沿えるように、精進します」

 勝一に頭を下げたあと、理仁はゆったりと口の端を上げて航生を見た。典子も冷たい笑みを浮かべている。

(こんなの、おかしいよ)

 金額に関わらず、不正は正すべきだ。社長の息子だからこそ厳しく責を負うべきではないのか。

 我慢できなくなった紗月が声を上げそうになったとき、それまで静観していた航生がフッと笑った。

「社長、この人は支払いを止めませんよ」

「どういう意味だ」

 社長は怪訝な顔でそばに立つ航生を見上げた。

「仮にこの会社の支払いは止めても、別のペーパーカンパニーを隠れ蓑にして金を払い続けます。なぜなら脅されているから」

 航生が視線を向けると、理仁の表情は驚愕で固まる。

「脅されている? 航生、お前はなにを」

「兄さん、一年くらい前から飲んでいる向精神薬、日本では違法だって知ってますよね」

 その瞬間、部屋の空気が凍り付いた気がした。
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