『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 かつて蔑まれ、隅に追いやられてきた航生が、今この場を完全に支配している。静かな迫力に紗月は圧倒されて、ただ見守ることしかできない。

「この後の対処は、経営責任者たる社長にお任せします。まぁ、僕なら多少の痛みを伴っても、公表しますよ。結果的にそれが会社のためになりますから」

 航生の冷えた声に、勝一はハッとした顔になる。

「――対処について、お前の助言がほしい」

 どこか縋るような声色に航生は軽くうなずく。

「はい、もちろんです。でも、今日は妻が疲れたと思うので、一緒に帰らせていただきます……紗月、いこうか」

 航生は紗月の背中を押すと、静かに執務室をあとにした。


***


 軽く食事を済ませてから帰宅した航生は、紗月と共にソファーで寛いでいた。

「あぁ、おいしい。やっぱり航生君がいれてくれると一味違うね」

 マグカップを両手にホッとした顔つきになった紗月。彼女が口にしているのは航生が小鍋でパウダーを牛乳から練るところから丁寧に作ったココアだ。彼女に美味しく味わってもらえるなら手間のかかる作業も楽しく思えるから不思議だ。
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