『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 ココアパウダーは品質、味、安全性を考慮して航生が選んだ有機栽培のカカオ豆を100%使用したオランダ産のものを使っている。

「今日は疲れただろう」

 紗月が淹れてくれたブラックコーヒーを飲みながら、航生は隣に声を掛ける。

「たしかに、精神的にくたくたかも」

「ごめん、まさか兄さんが本社に来ているとは知らなくて、君を危険な目に合わせた」

 脱力している紗月に航生は苦々しい気持ちになる。

 約束の時間になっても紗月が執務室に現れず、心配になった航生は『まだ一分しか過ぎてませんよ』と呆れる土方を無視して廊下に出た。そこで兄の怒鳴り声に気づけたのだから、あの判断は正解だった。

「ううん、私の間が悪かっただけだから。でも、ちゃんと片が付いてよかったね」

「紗月が不自然な金の流れを指摘してくれたおかげで、兄の不正がわかって、そこから違法薬物の件に繋がったんだ」

 もとより航生は兄には後ろ暗いところがあると踏んで慎重に身辺調査をしていたのだが、紗月の観察眼のおかげですぐに真実にたどり着けた。前職の経験を紗月は航生のために存分に発揮してくれたのだ。
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