『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
「たまたまだよ。でも、まさかお義兄さんが、薬物に手を出していたとは思わなかった」

「ちゃんと話してなくてすまない。ここまで君を巻き込むつもりはなかったんだ」

 航生としては、紗月の集めた資料と共に明日父に報告した上で判断を仰ぎ、後日理仁を招集するつもりだったのだが、本人登場により予定が狂ってしまった。

(もし、紗月が逆上したあの人に傷つけられでもしていたら、俺は正気でいられなかったな)

「……お義兄さん、どうなるの?」

 遠慮がちに紗月に問われて、航生はひとつ息をついた。

「経営の表舞台からは姿を消すだろうな」

 父は、なによりも会社の体面を重んじる人だ。大切な跡取りであろうと守り切れないと判断すれば、経営者として厳しい決断を下すに違いない。

 外部公表を行ったうえで切り捨てる。会社として一時的に痛みは伴うが、隠ぺいして後から露見するよりはるかにマシな選択だし、航生もそう助言するつもりでいる。

 当然、理仁とメガバンク頭取の娘との婚約も解消されるだろう。

 ただでさえ航生の能力に傾倒しつつある父は、兄という駒を失えば、加速度的に依存を深め、やがて航生なしでは判断を下せなくなるだろう。
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