『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 忙しいのは紗月だけではない。同僚たちもそれぞれ仕事を山ほど抱えている。出来なかったら彼らに回されるのがわかっていたから無理をしてでも坂本の投げる業務をこなしている。

 肩を触られた嫌な感覚を内側から洗い流したくて紗月はビールを一気に飲み干し、同じものを注文する。この際アルコールを摂取できれば味はなんでもよかった。

(私、〝男を知らない〟どころか、男性と手を繋いだ経験もないのに……ダメだ。お酒飲んで忘れたかったのに、かえってテンションが下がってきた)

 こんなことなら早く自宅に帰って体を休めた方がよかったかもしれない。

(でも、せっかくだしもう一杯だけ飲んで帰ろう。まだいつもより早い時間のはずよね)

 テーブルの上に置いたスマートフォンのロックを外すと、友人からメッセージが入っているのに気づく。

《紗月元気? 倒れてない?》

 彼女は大塚(おおつか)麻由(まゆ)。高校時代から仲良がいい友人だ。都心で独り暮らしをしている紗月とは違い、麻由は東京西部の市から都心に通勤していて、忙しい紗月を気にしてこうしてたまに連絡をくれる。
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