『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 余計な心配を掛けたくなくて《ありがとう。大丈夫だよ》と返信する。

 すぐに《よかった、こんどご飯行こうね》と返ってくる。さらに続いたメッセージに紗月は目を瞬かせた。

《そういえばこの前、偶然(しま)君と会った子がいたらしいよ》

「……えっ」

 思いがけない名前に驚いて、声が漏れる。

(島君が……)

 この十年思い出すのを避けてきた名前が文字として突き付けられて、ギュッと胸が苦しくなる。

《そうなんだ。懐かしいね》

 しばらく逡巡したあと紗月は文字を打ち込み、送信ボタンを押した。

 島航生(こうせい)。彼もまた高校の同級生だが、その存在は未だに紗月の心に疼くような痛みを与え続けている。

 紗月たちが通っていたのは、都心の西側にある穏やかな雰囲気の都立高校だった。

 三年に進級し、初めて同じクラスになった航生に対して抱いた印象は〝あの子黒板見づらくないのかな〟だった。

 彼の髪型は無造作で重たく、伸びた前髪は黒縁の眼鏡を覆い隠すほど長かった。
< 6 / 235 >

この作品をシェア

pagetop