『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
「さっきから、かわいいなって思ってて。俺らとあっちで一緒に飲みません?」

 テンション高く誘われるが、もちろんそんな気分ではない。

「ごめんなさい。私、そろそろ帰るので」

(居酒屋でビール片手にため息ついているアラサー女によく声を掛ける気になったな)

 妙に感心しながら紗月は硬い笑顔を浮かべた。

 紗月の容姿はいたって普通だ。身長は百五ハセンチで、特別スタイルがいいわけでもない。家族や友人は紗月の顔立ちを〝愛嬌があってかわいい〟と評してくれるが、人目を引くような美人ではない。

 服装も、ファストファッションのグレーのシンプルなニットにブラックのIラインスカートという、ぱっとしない組み合わせだ。ちなみに、ひとり暮らしのアパートのクローゼットの中も、同じような色やデザインの服ばかりで占められている。無難なものだけにしておけば、毎朝コーディネートに悩まずに済むからだ。

「そんなこと言わずに、いいじゃないですか」

 断ったにもかかわらず、彼らは強引だった。店員に訴えようと周囲を見回したが、運悪く姿が見当たらない。

「ほら、あっちに移りましょう」

「え、ちょっと……」
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