『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 強引な手が紗月の肩に乗った瞬間、オフィスで坂本に撫でられた感覚が蘇り、寒気が走る。

「やっ……」

「触るな」

 やめて、と叫びかけた声は、第三者によって遮られた。

 酔っ払いの手首を掴んで立っていたのはスーツ姿の男性。ぱっと見、紗月と同じくらいの年頃に見える。

「な、なんだよ」

 酔っ払いのひとりが振り返って声を上げる。

「彼女が困っているの、わかりませんか」

 妙に迫力のある低い声は、賑やかなはずの店内ではっきり響いた。

 高い上背に見下ろされ圧倒されたのか、学生たちは慌てて「す、すみません」「なんか、ノリで声を掛けちゃいました」と謝り始めた。

 スーツの男性が無言で手首の拘束を解くと、彼らはそそくさとその場を後にした。

(えぇと、今私、この人に助けてもらったみたい?)

 あっという間の出来事にポカンとする紗月。

「居心地が悪いでしょう。出ましょうか」

 スーツの男性は紗月に向かって小声で囁くと、カウンターの上の伝票を拾い上げそのままレジへ向かう。

「え? は、はい」

 我に返った紗月は慌てて立ち上がり、彼の背中を追った。

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