『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
――『俺なら、今君を困らせている全てから助けられる』

 たしかにバーで飲んだとき、航生はそう言っていたのを紗月はしっかり覚えている。その言葉の心地よさについ心が傾いてしまったのも。
「あれは、酔っ払いのノリでしょう」

「俺は真剣だった。これからは君に一切辛い思いをさせない。だから、君が欲しい――俺はそう言って、永井は俺を受け入れた。だから交渉と契約は成立している」

「う、受け入れたって……あれは交渉でも契約でもないよ。ただの成り行きで……」

 淡々と言葉を並べていく航生に、紗月は焦って反論する。

「俺は成り行きであんなことしない。とにかく君は少しでも早く、今の環境から離れた方がいい。辞めたあとは俺が養うし、仕事をする必要もない」

「なにも解決しないよ。仕事辞めたら無職になって、実家の借金が返せなくなるだけ」

「借金は俺が夫としてまとめて返済する」

(どうしよう。島君がずっとおかしい……!)

 とんでもないことを言っているのに、航生はいたって冷静だ。冗談にしても飛躍しすぎている。
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