『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
「借金を肩代わりしてくれて、仕事もしなくていいなんて。島君に一方に迷惑を掛けるだけでしょう。それに、私の問題はお金があればぜんぶ解決するよね。わざわざ結婚する意味がわからない」

 実際には肩代わりしてもらう気などこれっぽっちもなかったが、紗月はあえて現実的な疑問をぶつける。

 航生は一瞬だけ考えるように目を伏せ、すぐに落ち着いた顔で視線を上げた。

「いや、俺にもメリットはあるんだ。少し長くなるけど聞いてくれるか」

「う、うん……」

 断る隙がない気がして小さくうなずく。すると航生は握っていた手をそっと開放し背中をシートに預けた。

「俺がOGセラミックの社長の愛人の子だっていうのは昔、話したよな。母が亡くなってすぐ父方の戸籍に入り、島から大須賀姓に変わったんだ」

「あの……お母さんは、いつ?」

「卒業してすぐ、三月だった。苦しまずに、穏やかに旅立ったよ」

(そうだったんだ。あのあとすぐに……)

 フロントガラスを見つめる航生の整った横顔を見ながら、胸が苦しくなる。あの頃は気づけなかったが、彼の顔立ちは美しかった母に似ている。
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