『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
「君が働いているブランチソリューションズ、それなりに名の知れたIT企業だったよな。処理は俺に任せて。悪いようにはしない」

「処理……?」

 不穏なワードに紗月は目を瞬かせる。

(あれ、そういえば島君、なんで私の働いている会社知ってるんだろう)

 勤め先の名前は伏せていたはずなのに。

「俺は本気で言ってる」

 思考に沈んでいた紗月は、彼の声で我に返る。どうしても航生は紗月を辞めさせたいらしい。

「でも、辞めるなんてできないよ」

 身をすり減らすような努力をすべて手放すような不安を感じ、紗月は反発する。

「会社を辞めたって、君の価値は変わらない」

 わがままな子どもに優しく諭すような声がして、ギュッと胸が締め付けられる。

 本当は気づいていた。自分が身を置いている環境がとても危険であることを。それでも辞めないでいたのは、踏み出すより耐えるほうが楽だと思ってしまったからだ。

 逃げることから、逃げていただけ。

「退職を渋るなら、強引にでも話を進める」

 黙りこんでいるのを拒否していると思ったのか、航生はさらに真剣な表情になった。

(島君ってこういうキャラじゃなかったはずなのに)
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