『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 紗月は信じられない気持ちで航生の整った顔を見る。

 高校生のときの彼は、口数が少なくて物静か。基本的に紗月ばかりが彼に話しかけていた。それがこんなに弁が立つ押しが強い人になるなんて。

(やっぱり〝島君〟は〝大須賀さん〟に変わってしまったのかも)

 どこか寂しい気持ちになりながら、紗月は視線をさまよわせる。

「君が辛そうにしていると俺も辛いんだ。永井は昔からがんばりすぎるから――すごく心配になる」

(……あ)

 紗月は小さく息をのんだ。彼の言葉が、胸の奥に仕舞い込んでいた十年前の記憶を鮮やかに呼び起こしたからだ。

――『でも、がんばりすぎるなよ、永井っていつも一生懸命だからちょっと心配になる』

 高校生の彼はこう言って紗月の心に寄り添ってくれた。

「島君……」

 胸の奥がきゅっと締めつけられ、鼓動が次第に速くなる。

 容姿も立場も、十年前とはまるで違う。それでも、この人は確かにあのとき紗月が恋をした島航生なのだ。

「いきなりこんな話をされて、困惑しているのはわかる。ずっと夫婦でいてほしいなんて言わない。俺を好きになれないのもわかってる。それでもいいから、結婚してほしい」
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