『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
「僕の、できうるすべてで紗月さんを守ると誓います」

 心から紗月を愛しているかのような航生の真摯な声色に、胸がギュッと絞られる。

(これは、あくまで便宜上の結婚なんだから、勘違いしないようにしなきゃ)

 激流に流されている自覚はあるが、きちんと現状を把握しているつもりだ。

 自分たちの結婚はお互いのメリットを考慮したものに過ぎない。

 紗月は安定した生活を得たうえで、実家の借金の肩代わりをしてもらう。

 一方、航生は紗月を妻にすることにより大須賀家、正確には義母からの縁談を回避できる。既婚者に結婚を強要できないからだ。

『ずっと君を縛り付ける気はない。俺が本社での基盤づくりができるまででいい。二、三年あればなんとかなる。それなりの力を持てば、あの人も父も口出しできなくなる』

 航生はそう言って婚姻期間を区切った。だから、この結婚はその間だけの〝契約〟なのだ。

「顔を上げてください」

 頭を下げている航生に向かって父が笑った。

「そんなに畏まらなくていい。紗月が選んだ男なら間違いないってわかってる。反対なんてしないよ。なんせうちの次女は家の誰よりしっかりしているから」
< 88 / 235 >

この作品をシェア

pagetop