『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 さらりと返されて、紗月は首を傾げる。結婚するなら彼の両親にも挨拶するのが当然なのではないか。

「不快な気分にさせられるだけだ。俺は慣れているからいいけど、紗月に負担をかけたくない」

「そうかもしれないけど……」

 それも覚悟のうえで妻役を引き受けたのに、航生はどうしても抵抗があるようだ。

「それに、タイミングを間違えると妨害されかねない。婚姻届けを出した後に俺から報告しておく」

(そんな騙し討ちみたいなことをするんだ……)

 航生にとって両親は〝家族〟ではないと改めて実感し、胸が痛くなる。

「……でも、お兄さんには連絡、するんだよね?」

 思わず探るような声が出てしまったのは、ずっと気になっていたからだ。

 航生の腹違いの兄、理仁。正直、紗月は彼が苦手だ。あの薄く張りついたような笑みを思い出すと気が重くなる。

 しかし、航生にとって理仁はたったひとりの味方だったはず。

――『周りからの風当たりは強かったけど、兄さんだけは俺たちを無下にしなかった』

 かつて航生はこう語って理仁を慕い、信頼を寄せていた。
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