『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
『この忙しい時期に辞める? 周りに迷惑をかけてる自覚ないのか。代わりはいくらでもいるけど途中で逃げた人間って、次も続かないんだよ。は、結婚? それを言い訳に仕事放り出す女が一番困るんだよな』

 一通り、否定する言葉を浴びせたあと課長が退職を認めたのは、自分が紗月に対してパワハラやセクハラをしていた自覚があったからだろう。

 最後は『辞めるなら、もうお前は会社とは関係ない。これ以上、余計な話はするなよ』と忠告された。

 想定より早い今月末付けで退職できそうだが、まだ誰に仕事を引き継ぐかも決まっていない。

 同僚たちに迷惑をかけてしまうのが申し訳ないが、課長だけでなく経理部長にも人員の増員を働きかけ、今は引き継ぎ書を懸命に作っているところだ。

「受け入れるもなにも、退職は権利だ。それに有給休暇だって余っているんだろ。ここぞとばかりに使ってやればいい」

 航生は眉間に皺を寄せた。

「まぁ、有給はそっくり残ってるけどね。引き継ぎ書も作っておきたいから休む余裕はないかな」

 紗月は軽く肩をすぼめる。担当業務が多いので簡単に纏めるだけでも相当時間がかかってしまいそうだ。
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