『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
「本棚も空けたし、クローゼットも半分は君のスペースだ。基本的な生活用品もひと通り揃えてある」

「この数日でそんなことまでしてくれたの?」

「君が来てくれるの、楽しみだから」

 当たり前だと言わんばかりのトーンで返され、紗月は目を瞬かせた。

 彼からは少しでも早く一緒に暮らし始めたいと頼まれていた。父や義母にふたりの関係を勘繰られないようにするため、というのが建前だとわかっていても、その熱量に戸惑う。

 いつの間にか車は紗月のアパートの近くに差しかかっていた。上機嫌でハンドルを操っている航生の横顔が、まるでクリスマスを心待ちにする子どものように見えて、胸の奥がこそばゆくなった紗月は、そっと息を整えた。

「着いたよ。お疲れさま」

 アパートの前に到着すると、航生は静かに車を停車させる。

「ありがとう。じゃあ……」

 シートベルトのバックルを外しながらそう言うと、航生は素早く運転席を降りた。

「部屋の前まで送らせて」

 助手席のドアを開け、恭しく手を差し伸べてくる航生。その笑顔が眩しくて、紗月は思わず目を細めた。

(ど、どこかの王子様ですか……?)
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