これは果たして恋なのか。
第三章 少年少女の叫び

泥まみれ讃歌

◇◇◇

このゴミ屑みたいな世に生まれて十四年。私は初めて天使を見た。


ゴミみたいな世界はゴミみたいな人間の周りに形成されるもので、私の周りの人間はみんな等しくゴミ屑のような性格をしていた。

私も等しくゴミだった。


みんなで元気に遊べれば良い小学校と違って、中学校は見た目がカーストに大きく反映される。

当時中学二年生だった私は、カースト底辺を具現化したような存在だった。ボサボサの髪に荒れた肌、分厚いメガネ。

いつも教室の隅で文庫本を読んでいる根暗な私は、いわゆる“陽”な人たちの暇つぶしの格好の的になった。

そんな環境にいる人間が純真潔白なままでいられるわけがない。私の性格はどんどん捻くれていった。

その日も、いつもと何も変わらない日だと思った。

「はっちゃーん、お金貸してよぉ。2000円でいいからさー」

「え、でも前のも返してもらってないし…」
「んーじゃ、宝払いで!」

どっと空気が弾ける。周りの人たちの下品なゲラゲラとした笑い声が響く。

何が面白いんだろう。
困惑した顔の私を見て、その人たちはつまらなさそうにした。

「え、知らない?漫画のネタ。はっちゃんノリわるー」

漫画読んでそうな見た目してんのにね、と誰かが囁いて、くすくすした笑い声が聞こえた。

知らない。興味がない。あんたたちと一緒の興味を持ちたくもない。どうして自分たちの世界の常識を他人が持っていないと嘲笑の対象にするのだろう。
意味がわからない。馬鹿馬鹿しい。

「とにかく貸して!大至急」

ほらほらー、と差し出される手を、私はどこか覚めた目で見つめた。

「……だる」

その瞬間、その場の空気が止まった。
一気に心臓が冷える。

ーーあれ、わたし今、声に出したー?

しまった、と思っても遅い。

「…いまなんつった?」

目の前の影がゆらりと揺れて、腕が肩に回された。

「今の発言は見逃せませんよー?」

そう言った相手の顔は、笑っていない。

どうしよう。どうしよう。
焦っている反面、どこか冷静な自分がいた。

この人たちは可哀想な人間なのだ。自分たちはいつも人を馬鹿にするくせに、いざ自分が何か言われるとすぐに突っかかる器の小さい人たち。

見た目でしか序列を作ることができない、頭の悪い人たち。常に誰かを攻撃して自分が強い立場であることを示さなければ安心できない、弱い人たち。

そうだ。この人たちに従う必要なんて、本当はどこにもない。でも、できない。
その、器の小さくて、頭の悪くて、よわっちい人たちに対して、逆らうことなく従順でいるわたしはもっと弱い。

理不尽だ。あまりに理不尽だ。

「はっちゃーん、謝ってよー」

どっげーざ、どっげーざ、とコールが始まった。
周りはみんな笑っている。にやにやと、笑っている。

わたしは泣きそうになって、でも声を上げることもできずに、震える膝を地面につこうとしたところで、

不意に、教室の扉が開いた。
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