これは果たして恋なのか。
「こんにちは」

静かな声だった。よくいる、群れているような女子の甲高い声ではなく、凛としていて、澄んだ声。

土下座コールは止み、教室中の意識が“その人”に向けられた。

このゴミ屑みたいな世に生まれて十四年。わたしはその時、初めて人を本気で天使なのかと思った。

薄く形の良い唇。整った鼻筋。すっきりとしたフェイスライン。サラサラで長く、しなやかな黒髪。
意志の強い美しい眉と、大きく黒々と輝く瞳が、彼女の美しさを際立たせていた。

その美しい人は観衆の視線に臆することなく、教室に入ってくる。

スタスタと淀みなく歩く姿は綺麗だった。その人はそのまま近づいてきて、騒ぎの中心だったーーわたしを取り囲んでいる奴らの、前に立った。

「一組の体育祭実行委員です。仕事についてのお話があったのですがーーお取り込み中でしたか?」

そう言って、微笑んだ。美しく、見る人をどこかぞっとさせる笑みだった。

「い、いや全然…」

なあ、とみんながお互い頷き合う。
皆は少し怯えながらも、その頬はうっすら紅潮していた。世にも美しいものに立ち会えた興奮か、全員の眼には少しの期待と感動が見えた。
わたしもそのうちの一人だった。

心底、感動していた。圧倒的な美貌、存在感。
この人が来ただけで空気が変わった。ただ教室に足を踏み入れた、たったそれだけのことで。
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