これは果たして恋なのか。
美しい人は、視線だけそちらに向ける。
問いかけたのは、さっきまでわたしに金をせびっていた男子生徒だ。

「あのさ、1組のさ、木内さんだよね?たぶん」

「はい、そうです」

空気がザワっと揺れた。

「え、木内って…姉弟で美形っていうあの?」
「まじ?あの木内雛菊ちゃん?」
「どうりで…」
「いくらなんでも美しすぎない?」
「いや実は俺、去年クラス一緒だったよ」
「え、うらやまし!」

教室が興奮で包まれる。美しい人ーー木内さんは、それを微塵も気にする様子を見せず、問いかけた。

「で、なんですか?」
「え」
「木内雛菊ですが、何か?」

その口元には、相変わらず微笑みが称えられている。
質問をした男子は、少し目を泳がせたのち、おどけたように言った。

「えーっと…好きなタイプは?」

ここでそれ聞くか!と、おそらくクラス全員が思った。しかしそれを口には出さない。みんな、木内さんの答えを待っている。

そうですねえ、と思案したのち、木内さんはにっこり笑った。

「最低条件は、借りたお金を返す人ですかね」

聞いた男子生徒は、一瞬ぽかんとしたのち、さっと青ざめた。ピン、と空気が凍りつく。

ーーこの子は、一体いつから聞いていたのだろう。

「それでは失礼します」
いきましょうか、と微笑まれたわたしは、夢見心地で頷くしかなかった。

ーーー

木内さんは私の手を引き、廊下を歩く。

どくどくと、鼓動がなっていた。

「ねえ、名前聞いてもいい?」
振り向いた木内さんに、わたしは答える。一音一音噛み締めるように、答える。

「わたしの、名前はーーー」
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