極甘社長にほだされても二度と秘書はやりたくない

(出来れば社長とか、そういう地位の高い人とは一緒に仕事したくないな……)

姉の家の住所を記載した履歴書を作って転職サイトや転職エージェントに会いってお勧めされたのは人事部の仕事。
人事部では社内の人とのコミュニケーションやトレーニング、それに社員を募集する立場にあることから秘書経験も生かせるのでは、とオススメされた。
――株式会社アルカトラズ。
在庫システムなどのシステム開発がメインの会社らしい。なんでも社長の藤沢さんは学生時代に友人とこの会社を立ち上げて今では上場も果たしている。
どちらにせよあまり偉い人と関わりたくないのと、さっさと別の仕事をして気持ちを切り替えたいのもあり、内定をもらうとすぐに入社を決めたのだった。

(これって、考えなくとも前と同じパターンになってない?)

一瞬にしてここに至るまでのできごとがよみがえってきて、呆然とする。前の会社の社長も表面だけは良かったのだ。それに押しに弱い私にも悪い部分はある。

(けど、藤沢社長はきっとそんなことないって思いたい……)

藤沢社長は困っている私を助けようとしてくれているのだ。前のときみたいに恋愛感情があるわけじゃないんだから、ここで頷いてしまえばいいのに。でも同じようになったら怖いなと思う自分がいる。

「坂井さん、大丈夫? 顔色が悪いけど……少しカフェで休んでくる?」

顔をのぞき込まれて眼前に藤沢社長の整った顔が近づいて思わず仰け反る。その表情は心配そうに私を見つめている。

「さすがに俺の部屋はマズかったかな。でも十分部屋も広いし、綺麗に使ってるから大丈夫だと思うんだけど……それに家って住まないと痛むっていうしさ」
「そう、ですね……」
「良かった。じゃあ合鍵作って置くから、今日は一緒に帰ろうね」
「あ、いや、今のは……」

同意の意味頷いたわけではなかったが、藤沢社長は聞いていない。

「色々迷惑かけて申し訳ないなって思ってたんだ。だから、俺ができる事があって嬉しいよ。これからもよろしくね」

にこりと頬えまれてしまい、心底押しに弱い自分が情けなくなった。

その日、藤沢社長につられてきたのは都心にあるいわゆるタワマンの一室だった。とは言っても近くにスーパーや薬局はあるので暮らしに困ることはなさそうだ。もう二度とこんな場所に来ることはないと思っていたのに、また来てしまうとは世の中何が起こるかわからないものだ。

「どうぞ、と言ってもあまり物もないから生活感ないんだけど」
「いえ十分です。本当に寝泊まりさせてもらうだけなので……」

藤沢社長の部屋は15階。高くもなく低くもないといったところだが、その高さがちょうどいい。全体的に白を基調とした内装でまとまっていて居心地も良さそうだ。

「こっちはキッチン。料理とかも勝手にしていいからね。必要なものがあれば言ってもらえれば買ってくるし」
「あ、藤沢社長って自炊する方ですか? 口に合うか分かりませんが簡単な料理ぐらいならさせてください」
「ん~、じゃあお世話になろうかな。でも無理しなくていいからね。仕事で外食するときもあるから、そのときは教えるよ」
「はい、ありがとうございます」

掃除は当たり前として、洗濯……はデリケートな問題なのでそれは別々。せめて居候の身として恩返しできることというとそれぐらいしか思い当たらなかった。
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