極甘社長にほだされても二度と秘書はやりたくない
「できるの?」
「俺にできなかったことはない」

藤沢さんの鋭い問いかけに即答で答えた宮川さんに策はあるのだろうか。

(何か、何か違うところはないかな……)

IT業界に来ると決めて少しぐらい勉強をしたつもりでいたけど全くついていけない。
でも何か力になれることはないだろうかと素人ながら資料を何度も見比べる。

「あっ……」

違うところを見つけた。
難しくて試験を受けるのはあきらめてしまったけれど、教本に乗っていた項目があった。

「何か意見があったらどうぞ」
「あの、見当違いだったすみません。この通信の暗号化方式、他社の製品って古くないですか?」

資料を指摘すると宮川さんも確認してくれた。

「仕様変更するよりも、今回は差別化を図った方がいいかもしれないね」
「あぁ。あっちは最新エンジンに気を取られて、よく見ると他が甘い」

空気が明るくなっていくのがわかり、ほっと胸をなでおろす。

「わかった、じゃああとは宮川に任せるよ」
「了解。まずはデザインの変更と、資料まとめる。今野、まだ修正間に合うよな?」
「うん。発表会用の印刷はまだ。印刷所には待ってもらうように連絡しておく」
「頼む。それじゃ」

そういうと宮川さんは光のごとくパソコンをもって会議室を出て行ってしまった。
後を追うように今野さんも会議室を後にする。

「ふぅ、類似製品ってよくある話なんだけどね。同じ時期にぶつけてこられるときついねぇ」

パタンとノートPCを閉じて藤沢さんはため息をついた。
さっきの鋭い視線はどこかへ消えて、安堵の表情を浮かべている。

「逆に入社歴の浅い坂井さんが入れてくれてよかったよ。慣れてくると簡単なことも見落としがちだから」
「役に立てたみたいなら良かったです」
「うん、ありがとう。さすが小さいことに気づいてくれるね」

家にいるときと同じように頭をポンと撫でられる。
藤沢さんにありがとう、と言われるのが心地よく感じる。

(こういうのも、あと1週間なんだよね……)

やっぱり少し寂しくて、でも認めるのは怖くて。
都合のいい時間がこのまま続けば、なんて考えてしまう。

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