極甘社長にほだされても二度と秘書はやりたくない
資料を抱えて社長室へ向かうと、話し声が聞こえてきて足を止めた。確か来客や社内のアポもなかったはずだけれど、誰か飛び込みで来たのかもしれない。話の邪魔をしてはいけないとなるべく足音を立てないように秘書スペースの机に向かった。誰がきているのか、もし来客ならお茶を出さなきゃいけないとそっと中を確認しにいくと、藤沢さんと女性の声が聞こえてきた。
「まだ休暇中だろ。わざわざ出てこなくても良かったのに」
「あら、迷惑だった? 長い間休んじゃったから心配でね」
「どうせもうすぐ辞めるんだから変わらないだろ」
「失礼ね。ちゃんと引き継ぎしてから辞めるわよ」
会話の内容からして、今休暇中の二宮さんという人だろうか。だとしたら社長室に来たとしても社内の誰も驚いたりはしないだろう。むしろまだ休暇中なのに何か用事でもあったのだろうか。臨時とはいえ秘書をやってる手前、挨拶をするべきかと顔を出そうとした。
「で、準備は進んでるのか?」
「もちろんよ。ドレスもいいの選べたし、早く見て欲しいぐらい」
その言葉に二宮さんは寿退社をするのか、確かに結婚式の準備は忙しいって聞くし、それで長期休暇を取れるんだから良い会社だなぁと思っていると。
「それに、私だけのことじゃないんだから、あなたもちゃんと考えてよ」
「わかってるよ。君のご両親に迷惑はかけられないからね」
「ほんとよ。まぁ、うちの母親にはウケがいいんだけどね」
「手厳しいなぁ」
思わずびくりと身体が固まってしまった。
まずは自己紹介をして、おめでとうございますと言った方がいいだろうかと考えてたのに一瞬で頭の中が真っ白になった。
(え、それってどういう……?)
――私だけのことじゃないんだから、あなたもちゃんと考えて
――君のご両親には迷惑かけられないからね
それって、この会話って。
(二宮さんの結婚相手って藤沢さん、なんだ……)
そうじゃないとこんな会話おかしい。そう思うと同時になぜか笑いがこみ上げてきた。
きっと今誰かが私の顔をみたらおかしい人と思うかもしれない。
タオルとポーチを取って足早にトイレに向かう。
(やっぱり……騙されてた……)
藤沢さんなら大丈夫だと信じていた。もし騙されていたとしても後悔はしないと決めていたのに。
「ホントに、バカだなぁ……」
いつになっても人の本質を見抜けなくて騙されてしまう。二度も同じ思いをするなんてごめんだって思っていたのに。結局同じ道をたどってしまった。
タオルに涙が染みこんでいく。もうあんなに泣くことはないと思っていたのに、同じことでまた泣いてしまうなんて。
きっと藤沢さんにとっては結婚する前のちょっとした遊びのつもりだったのかもしれない。もしかしたら私って軽そうに見られているのだとしたら、私のせいだ。
でも傷口が広がる前で良かったのかもしれない。たった一度肌を重ねただけ、ほんの数週間一緒に住んだだけ。
――ここで諦めれば、まだやり直せる。
気まずいのはあと数日の話。それを乗り越えれば藤沢さんと関わることはもうなくなる。こんな短い期間で転職なんて嫌だけれど、どうしようもなくなったら会社も辞めればいい。
でも前と違うのは、騙されていたんだとしても、藤沢さんのことは嫌いになれない。
傷口は浅いと思っていたけれど、藤沢さんのことを思い出すとじゅくじゅくと熱をもったように熱い思いが燻っているように感じた。
「まだ休暇中だろ。わざわざ出てこなくても良かったのに」
「あら、迷惑だった? 長い間休んじゃったから心配でね」
「どうせもうすぐ辞めるんだから変わらないだろ」
「失礼ね。ちゃんと引き継ぎしてから辞めるわよ」
会話の内容からして、今休暇中の二宮さんという人だろうか。だとしたら社長室に来たとしても社内の誰も驚いたりはしないだろう。むしろまだ休暇中なのに何か用事でもあったのだろうか。臨時とはいえ秘書をやってる手前、挨拶をするべきかと顔を出そうとした。
「で、準備は進んでるのか?」
「もちろんよ。ドレスもいいの選べたし、早く見て欲しいぐらい」
その言葉に二宮さんは寿退社をするのか、確かに結婚式の準備は忙しいって聞くし、それで長期休暇を取れるんだから良い会社だなぁと思っていると。
「それに、私だけのことじゃないんだから、あなたもちゃんと考えてよ」
「わかってるよ。君のご両親に迷惑はかけられないからね」
「ほんとよ。まぁ、うちの母親にはウケがいいんだけどね」
「手厳しいなぁ」
思わずびくりと身体が固まってしまった。
まずは自己紹介をして、おめでとうございますと言った方がいいだろうかと考えてたのに一瞬で頭の中が真っ白になった。
(え、それってどういう……?)
――私だけのことじゃないんだから、あなたもちゃんと考えて
――君のご両親には迷惑かけられないからね
それって、この会話って。
(二宮さんの結婚相手って藤沢さん、なんだ……)
そうじゃないとこんな会話おかしい。そう思うと同時になぜか笑いがこみ上げてきた。
きっと今誰かが私の顔をみたらおかしい人と思うかもしれない。
タオルとポーチを取って足早にトイレに向かう。
(やっぱり……騙されてた……)
藤沢さんなら大丈夫だと信じていた。もし騙されていたとしても後悔はしないと決めていたのに。
「ホントに、バカだなぁ……」
いつになっても人の本質を見抜けなくて騙されてしまう。二度も同じ思いをするなんてごめんだって思っていたのに。結局同じ道をたどってしまった。
タオルに涙が染みこんでいく。もうあんなに泣くことはないと思っていたのに、同じことでまた泣いてしまうなんて。
きっと藤沢さんにとっては結婚する前のちょっとした遊びのつもりだったのかもしれない。もしかしたら私って軽そうに見られているのだとしたら、私のせいだ。
でも傷口が広がる前で良かったのかもしれない。たった一度肌を重ねただけ、ほんの数週間一緒に住んだだけ。
――ここで諦めれば、まだやり直せる。
気まずいのはあと数日の話。それを乗り越えれば藤沢さんと関わることはもうなくなる。こんな短い期間で転職なんて嫌だけれど、どうしようもなくなったら会社も辞めればいい。
でも前と違うのは、騙されていたんだとしても、藤沢さんのことは嫌いになれない。
傷口は浅いと思っていたけれど、藤沢さんのことを思い出すとじゅくじゅくと熱をもったように熱い思いが燻っているように感じた。