極甘社長にほだされても二度と秘書はやりたくない
メイクを直して戻るとすでに二宮さんの姿はなかった。その代わり、デスクの上には有名高級店のチョコレートが置かれていた。
『お休みいただいていてすみません。いない間、藤沢のことよろしくお願いします 二宮』
付箋には綺麗な字でメモが書かれていた。その文字を見て、きっと仕事のできる綺麗な人なんだろうなと見なくても分かる。気遣いのできる人の行動だ。せめて迷惑をかけないように、仕事だけはきちんとやりきるしか気を紛らわせる方法はなかった。
なるべく藤沢さんと顔を合わせないようにしようと思っていたのだけれど、何故か藤沢さんも急に忙しくなりすれ違いの生活が続いた。特に製品発表の日が近づくにつれて、エンジニア魂がうずき出したのか会社に泊まる日もあった。藤沢さんは上でいるよりも現場で動くのも好きなタイプなんだろう。でもそれが私にとって気持ちの整理をするのにもちょうど良かった。
秘書としても仕事もやりつつ、今野さんと当日のスケジュールの打ち合わせなどをするうちに、あっという間に製品発表会当日になってしまった。
「間に合って良かったですね……」
「つってもまだデモだけどな。本当の地獄はここからだ」
準備のために早く会場にはいっていた宮川さんに声をかけると、その顔には酷いクマがあった。人間こんなにクマができていても生きられるんだと思うぐらい酷い。
「差し入れです~。これで、今日は頑張りましょう……」
よろよろとコンビニの袋を持ってやってきたのは今野さんだ。その袋中にはいわゆる栄養ドリンクが入っている。発表会のスライド作成やその他の対応をしていた今野さんにも大分疲れの色が浮かんでいる。
「二人ともお疲れさまです……。何かあれば手伝いますので言ってくださいね!」
「まぁ秘書はこの後の懇親会が大変だろ。俺は発表会が終わったら寝る」
「開発者が寝てどうすんのよ!」
「懇親会とかそういうのは俺の仕事じゃない」
二人のやりとりとみていると自然と頬が緩んでくる。同期で、恋仲でもうすぐ結婚。こういう風に対等に言い合える仲もいいかもしれないなぁと思ってしまう。
「まぁ何があったか知らねぇけど藤沢のやつがやたら張り切ってたからなぁ」
宮川さんがちらりと私に視線を向けてきた。
(それは二宮さんとの結婚があるから……)
「確かに前までは結構宮川に任せるってスタンスだったけど、今回は関わってきてたような……」
「良いところ見せたかったんだろ。ま、ようやくアイツにも良いやつができて安心した」
「あぁ、そういうことなんだ」
二人は藤沢さんと二宮さんのことを知っているのだろうか。
だとしたら二人の言っていることも理解できる。
「そう、ですね。……お似合いですよね。あの二人……」
社長と秘書。よくある話だ。
ただ、私は昔も、今もその流れにはならなかっただけ。
憧れていたとかそういうのではないけれど、仕事の信頼関係の延長線上で恋人になれるのは少しうらやましいかもしれない。
「えっと……あの二人って……?」
「あ~、まぁ、アイツも頑張ってるってことか」
今野さんは不思議そうな表情を浮かべ、宮川さんは気まずそうな表情を浮かべている。また何か変なことを言ってしまっただろうかと思っていると、そろそろ受付の時間であることに気付く。
「あ、もう受付の時間ですね。それでは今日はよろしくお願いします」
ぱっと気持ちを切り替えてそう告げると二人も微笑んでくれた。
その笑みに最後の仕事をちゃんとやりきらなきゃと気を引き締めるのだった。
『お休みいただいていてすみません。いない間、藤沢のことよろしくお願いします 二宮』
付箋には綺麗な字でメモが書かれていた。その文字を見て、きっと仕事のできる綺麗な人なんだろうなと見なくても分かる。気遣いのできる人の行動だ。せめて迷惑をかけないように、仕事だけはきちんとやりきるしか気を紛らわせる方法はなかった。
なるべく藤沢さんと顔を合わせないようにしようと思っていたのだけれど、何故か藤沢さんも急に忙しくなりすれ違いの生活が続いた。特に製品発表の日が近づくにつれて、エンジニア魂がうずき出したのか会社に泊まる日もあった。藤沢さんは上でいるよりも現場で動くのも好きなタイプなんだろう。でもそれが私にとって気持ちの整理をするのにもちょうど良かった。
秘書としても仕事もやりつつ、今野さんと当日のスケジュールの打ち合わせなどをするうちに、あっという間に製品発表会当日になってしまった。
「間に合って良かったですね……」
「つってもまだデモだけどな。本当の地獄はここからだ」
準備のために早く会場にはいっていた宮川さんに声をかけると、その顔には酷いクマがあった。人間こんなにクマができていても生きられるんだと思うぐらい酷い。
「差し入れです~。これで、今日は頑張りましょう……」
よろよろとコンビニの袋を持ってやってきたのは今野さんだ。その袋中にはいわゆる栄養ドリンクが入っている。発表会のスライド作成やその他の対応をしていた今野さんにも大分疲れの色が浮かんでいる。
「二人ともお疲れさまです……。何かあれば手伝いますので言ってくださいね!」
「まぁ秘書はこの後の懇親会が大変だろ。俺は発表会が終わったら寝る」
「開発者が寝てどうすんのよ!」
「懇親会とかそういうのは俺の仕事じゃない」
二人のやりとりとみていると自然と頬が緩んでくる。同期で、恋仲でもうすぐ結婚。こういう風に対等に言い合える仲もいいかもしれないなぁと思ってしまう。
「まぁ何があったか知らねぇけど藤沢のやつがやたら張り切ってたからなぁ」
宮川さんがちらりと私に視線を向けてきた。
(それは二宮さんとの結婚があるから……)
「確かに前までは結構宮川に任せるってスタンスだったけど、今回は関わってきてたような……」
「良いところ見せたかったんだろ。ま、ようやくアイツにも良いやつができて安心した」
「あぁ、そういうことなんだ」
二人は藤沢さんと二宮さんのことを知っているのだろうか。
だとしたら二人の言っていることも理解できる。
「そう、ですね。……お似合いですよね。あの二人……」
社長と秘書。よくある話だ。
ただ、私は昔も、今もその流れにはならなかっただけ。
憧れていたとかそういうのではないけれど、仕事の信頼関係の延長線上で恋人になれるのは少しうらやましいかもしれない。
「えっと……あの二人って……?」
「あ~、まぁ、アイツも頑張ってるってことか」
今野さんは不思議そうな表情を浮かべ、宮川さんは気まずそうな表情を浮かべている。また何か変なことを言ってしまっただろうかと思っていると、そろそろ受付の時間であることに気付く。
「あ、もう受付の時間ですね。それでは今日はよろしくお願いします」
ぱっと気持ちを切り替えてそう告げると二人も微笑んでくれた。
その笑みに最後の仕事をちゃんとやりきらなきゃと気を引き締めるのだった。