極甘社長にほだされても二度と秘書はやりたくない
5.極甘社長の秘書
あのあと藤沢さんを一人おいて成田空港へと向かった。昼の便で日本に着くという姉との待ち合わせには早かったが、一度家に戻って荷物を取りにいけば鉢合わせてしまう可能性もあった。
姉と合流し、姉の家に向かった。張っていた気が緩んだのか涙が出てきてしまい姉に「ごめんね、もっと早く相談してくれれば良かったのに」と言われてしまった。姉には前の社長のところから追い出されたことしか話していない。でもそんなことはもうどうでも良くて。今は藤沢さんのことしか考えられなかった。
少しずつ、この一ヶ月で起こったことを姉に説明すると「陽香は優しいからね。次は、良い恋ができるといいね」と貶すでもなく頭を撫でてくれた。またそんな男にひっかかって、と言われるかと思っていた分、まだ涙が零れる。
やっぱり、藤沢さんのことは、嫌いにはなれない。
週末、藤沢さんから連絡が何回もきていた。けれど1通だけ「姉が日本にもどってきました」とメッセージを返すと、それ以上の連絡は来なくなった。タイムリミットが来てしまったのだ。あの家での出来事も、秘書をやっていたことも、全部。
もう、恋なんてしたくないなぁと思うほどに藤沢さんのことを好きだったんだと実感する。恋をしたくないと言うよりも、藤沢さん以上に好きなれる人がいないかもしれないと思っている。
それでも時間は無情に流れていく。あっという間に週末が終わり、出勤しなければいけなくなった。といっても、もう人事部に戻るわけだし、二宮さんも戻ってくる。せめて落ち着いたら荷物だけは取りにいかないとなと思いながら出勤した。
「おはようございます」
「あぁ、おはよう坂井さん」
「今日から改めてよろしくお願いします」
このやりとり、久しぶりだなぁと思いながら人事部にきて山田さんに挨拶をする。けれど山田さんは不思議そうな顔を浮かべていた。
「坂井さん、今日付で人事異動出したんだけど、あれ?」
「え?」
普通人事異動があるなら本人に話があるべきじゃないのだろうか。そう思っていると山田さんがこれから掲示板に貼りにいくという書面を見せてくれた。
「代表取締役社長付け秘書……って、これ、先週までですよね!?」
「社長の許可も下りてるし、坂井さんも承諾したって聞いたんだけど、え?」
山田さんも困惑の表情を浮かべていた。これはここで話していても仕方がないと、私はそのまま社長室へと向かう。
何度もきていた連絡がぱたりと止んだのはもう関わらないという意思表示だと思っていた。
藤沢さんが何を考えているのか全くわからない。
社長室につき半開きになっている磨りガラスのドアをコンコンと控えめに叩く。
「あ、おはよう。お姉さんとは無事に会えた?」
「おはようございます。その、先週は色々と……」
何があったかということを口にするのはこの場ではよくないと言葉を濁すも、藤沢さんはなんら気にしている様子もなかった。私だったら目が覚めていなくなっていたら多分焦るけど、藤沢さんは随分と余裕があるようだ。
「うん、まぁ起きていなかったのは驚いたけど。今度はちゃんと連絡入れて欲しいな」
今度という言葉にひっかかりを覚えるけれど、今はそれどころじゃない。
「あの、それで、さっき異動だって聞いたんですが」
「あぁそうそう。引き継ぎもあるから席どうしようかな……」
「おはようございます。あ、貴女が後任の坂井さんね。秘書の二宮真琴です。今日から引き継ぎ、よろしくおねがいします」
丁度話をしていると出勤してきた二宮さんが社長室に入ってきた。声は聞いたことがあったけれど初めてその姿を見た。ロングの黒髪が綺麗ですらっとしたモデル体型の女性だ。メイクも控えめだけれどきちんとしていて、赤いルージュが印象的だ。
「秘書の席は狭いからとりあえずここでいいんじゃない? 3人で確認しなきゃいけないこともあるだろうし」
「そうだね。それじゃ引き続きここでお願いできるかな?」
藤沢さんは二宮さんの提案に頷く。終始機嫌のその様子は、私の気持ちとは真反対で少しだけもどかしくなってしまう。それに私は秘書をやるつもりなんて、ない。
「坂井さん?どうかした?」
返事をしない私に藤沢さんが話しかけてきた。
「……秘書は、できません」
私は精一杯申し訳なさそうな表情を浮かべて、そして笑った。
姉と合流し、姉の家に向かった。張っていた気が緩んだのか涙が出てきてしまい姉に「ごめんね、もっと早く相談してくれれば良かったのに」と言われてしまった。姉には前の社長のところから追い出されたことしか話していない。でもそんなことはもうどうでも良くて。今は藤沢さんのことしか考えられなかった。
少しずつ、この一ヶ月で起こったことを姉に説明すると「陽香は優しいからね。次は、良い恋ができるといいね」と貶すでもなく頭を撫でてくれた。またそんな男にひっかかって、と言われるかと思っていた分、まだ涙が零れる。
やっぱり、藤沢さんのことは、嫌いにはなれない。
週末、藤沢さんから連絡が何回もきていた。けれど1通だけ「姉が日本にもどってきました」とメッセージを返すと、それ以上の連絡は来なくなった。タイムリミットが来てしまったのだ。あの家での出来事も、秘書をやっていたことも、全部。
もう、恋なんてしたくないなぁと思うほどに藤沢さんのことを好きだったんだと実感する。恋をしたくないと言うよりも、藤沢さん以上に好きなれる人がいないかもしれないと思っている。
それでも時間は無情に流れていく。あっという間に週末が終わり、出勤しなければいけなくなった。といっても、もう人事部に戻るわけだし、二宮さんも戻ってくる。せめて落ち着いたら荷物だけは取りにいかないとなと思いながら出勤した。
「おはようございます」
「あぁ、おはよう坂井さん」
「今日から改めてよろしくお願いします」
このやりとり、久しぶりだなぁと思いながら人事部にきて山田さんに挨拶をする。けれど山田さんは不思議そうな顔を浮かべていた。
「坂井さん、今日付で人事異動出したんだけど、あれ?」
「え?」
普通人事異動があるなら本人に話があるべきじゃないのだろうか。そう思っていると山田さんがこれから掲示板に貼りにいくという書面を見せてくれた。
「代表取締役社長付け秘書……って、これ、先週までですよね!?」
「社長の許可も下りてるし、坂井さんも承諾したって聞いたんだけど、え?」
山田さんも困惑の表情を浮かべていた。これはここで話していても仕方がないと、私はそのまま社長室へと向かう。
何度もきていた連絡がぱたりと止んだのはもう関わらないという意思表示だと思っていた。
藤沢さんが何を考えているのか全くわからない。
社長室につき半開きになっている磨りガラスのドアをコンコンと控えめに叩く。
「あ、おはよう。お姉さんとは無事に会えた?」
「おはようございます。その、先週は色々と……」
何があったかということを口にするのはこの場ではよくないと言葉を濁すも、藤沢さんはなんら気にしている様子もなかった。私だったら目が覚めていなくなっていたら多分焦るけど、藤沢さんは随分と余裕があるようだ。
「うん、まぁ起きていなかったのは驚いたけど。今度はちゃんと連絡入れて欲しいな」
今度という言葉にひっかかりを覚えるけれど、今はそれどころじゃない。
「あの、それで、さっき異動だって聞いたんですが」
「あぁそうそう。引き継ぎもあるから席どうしようかな……」
「おはようございます。あ、貴女が後任の坂井さんね。秘書の二宮真琴です。今日から引き継ぎ、よろしくおねがいします」
丁度話をしていると出勤してきた二宮さんが社長室に入ってきた。声は聞いたことがあったけれど初めてその姿を見た。ロングの黒髪が綺麗ですらっとしたモデル体型の女性だ。メイクも控えめだけれどきちんとしていて、赤いルージュが印象的だ。
「秘書の席は狭いからとりあえずここでいいんじゃない? 3人で確認しなきゃいけないこともあるだろうし」
「そうだね。それじゃ引き続きここでお願いできるかな?」
藤沢さんは二宮さんの提案に頷く。終始機嫌のその様子は、私の気持ちとは真反対で少しだけもどかしくなってしまう。それに私は秘書をやるつもりなんて、ない。
「坂井さん?どうかした?」
返事をしない私に藤沢さんが話しかけてきた。
「……秘書は、できません」
私は精一杯申し訳なさそうな表情を浮かべて、そして笑った。