極甘社長にほだされても二度と秘書はやりたくない
もし秘書をやったとしても、これから結婚する二人のことを傍で見ていることなんてできない。
「え、だって……」
「社長、また勝手に決めたんですか?」
困惑している藤沢さんを見て、腕を組んだ二宮さんはその手を額に当てて溜め息をついた。
そのやりとりに二人の関係性を見せつけられたような気がして胸が締め付けられる。
「勝手にって、そりゃ臨時で秘書してもらってたからいいかなって……」
「前から言ってますよね。本人の意思の確認を先にしてくださいって。宮川の時もそうですよ。勝手に採用決めてくるし」
「それは……言い訳はしないけど」
目の前で繰り広げられる二人の会話をもう聞いていたくない。どうやってこの場を切り抜けようかと頭の中で考えていると二宮さんが私に視線を向けた。
「とりあえず、私は引き継ぎの準備してきますので、お二人でちゃんと話し合ってください」
そう言うと二宮さんは社長室を出て行ってしまった。部屋の中に二人きりになり、気まずい空気が流れる。
「とりあえず、座って話そうか」
「はい……」
促されて先週まで使用していたデスクに座る。懐かしいなと思う反面、これが藤沢さんと話をする最後のチャンスかもしれないと悟る。ここでけじめを付けなければいけない。
「勝手に異動を決めてごめんね。でも何で秘書にはなってもらえないのかな?」
あくまでも優しく問いかけてくる。その声色に、その視線にじわじわと身体が侵食されていくような気分になる。
「藤沢さんも先週会ったと思いますが……前の会社で秘書をしていて、その社長と恋愛関係になって振られたからです。もうあんな思いは二度と、したくないんです」
二度としたくないというよりも、そうなりかけているというのが正しい。だから今度は自分からちゃんと蹴りをつけないとまた同じことを繰り返してしまうんじゃないかと怖くなってしまう。
「それって僕はそこまで信用ないってこと? あんなに君のことを好きだって伝えたのに、まだ伝わってない?」
藤沢さんは人として信用できる人だと思う。山川さんとは違い、仕事もできるし人望もある。でも恋愛関係になってはいけない人だと、今になって思う。
「藤沢さん、これから結婚するのにそういうこと、他の人に言っちゃダメですよ」
本当なら怒ってもいいはずだ。でも怒りをぶつけられないのはやっぱり藤沢さんのことが好きだからなんだと思う。
「え、っていうか結婚? 俺が? いや、そうか。その手があったか」
「二宮さんにはこのこと黙ってます。結婚前の気の迷いですよね。私は、大丈夫ですから」
「いやいやいや、なんでそこで二宮が……」
こんなに焦った様子の藤沢さんを見たのははじめてかもしれない。一緒に行った出張では遺憾がなくて慌てていたというだけで、仕事に関してはいつもどっしりと構えていたからだ。
「すみません、前に二宮さんが藤沢社長と話をしているところを聞いて……結婚がどうのって」
「……あぁ! そういうことか! なるほどね、ちょっと待って」
少し考え込んで藤沢さんは席を立つとスマホで何か操作をした。ほんの数十秒もしないうちにコンコンと社長室のドアをノックする音が聞こえた。
「お呼びですか、社長。というか、話は終わりました?」
入ってきたのは二宮さんだった。引き継ぎの資料を用意していたのか手元にはいくつかのファイルがあった。
「あぁ、それはまだなんだけど。申し訳ないんだけど、この間の前撮りの写真って見せられる?」
「? ありますけど……どうするんですか?」
「ちょっと、ね……」
二宮さんは藤沢さんと私を見比べたあとに「あぁ、そういうことですか」と納得した様子でスマホを取りだした。ロックを解除し操作をするとスマホをそのまま藤沢さんに渡した。
(そんなもの、見せられたくない……)
二人が仲良く写っている写真を見せてくるなんて、藤沢さんは酷い人だ。でもこうして酷くした方がすっぱり諦めてくれると思っているのなら、それは正解かもしれない。頭の良い人の考えること違う。
「あぁ、これこれ。はい、これ見て」
「……見たく、ないです」
これが私にできる精一杯の抵抗だった。見たくないという気持ちと見ないと諦められないという気持ちがぐるぐると頭の中で渦巻く。
「え、だって……」
「社長、また勝手に決めたんですか?」
困惑している藤沢さんを見て、腕を組んだ二宮さんはその手を額に当てて溜め息をついた。
そのやりとりに二人の関係性を見せつけられたような気がして胸が締め付けられる。
「勝手にって、そりゃ臨時で秘書してもらってたからいいかなって……」
「前から言ってますよね。本人の意思の確認を先にしてくださいって。宮川の時もそうですよ。勝手に採用決めてくるし」
「それは……言い訳はしないけど」
目の前で繰り広げられる二人の会話をもう聞いていたくない。どうやってこの場を切り抜けようかと頭の中で考えていると二宮さんが私に視線を向けた。
「とりあえず、私は引き継ぎの準備してきますので、お二人でちゃんと話し合ってください」
そう言うと二宮さんは社長室を出て行ってしまった。部屋の中に二人きりになり、気まずい空気が流れる。
「とりあえず、座って話そうか」
「はい……」
促されて先週まで使用していたデスクに座る。懐かしいなと思う反面、これが藤沢さんと話をする最後のチャンスかもしれないと悟る。ここでけじめを付けなければいけない。
「勝手に異動を決めてごめんね。でも何で秘書にはなってもらえないのかな?」
あくまでも優しく問いかけてくる。その声色に、その視線にじわじわと身体が侵食されていくような気分になる。
「藤沢さんも先週会ったと思いますが……前の会社で秘書をしていて、その社長と恋愛関係になって振られたからです。もうあんな思いは二度と、したくないんです」
二度としたくないというよりも、そうなりかけているというのが正しい。だから今度は自分からちゃんと蹴りをつけないとまた同じことを繰り返してしまうんじゃないかと怖くなってしまう。
「それって僕はそこまで信用ないってこと? あんなに君のことを好きだって伝えたのに、まだ伝わってない?」
藤沢さんは人として信用できる人だと思う。山川さんとは違い、仕事もできるし人望もある。でも恋愛関係になってはいけない人だと、今になって思う。
「藤沢さん、これから結婚するのにそういうこと、他の人に言っちゃダメですよ」
本当なら怒ってもいいはずだ。でも怒りをぶつけられないのはやっぱり藤沢さんのことが好きだからなんだと思う。
「え、っていうか結婚? 俺が? いや、そうか。その手があったか」
「二宮さんにはこのこと黙ってます。結婚前の気の迷いですよね。私は、大丈夫ですから」
「いやいやいや、なんでそこで二宮が……」
こんなに焦った様子の藤沢さんを見たのははじめてかもしれない。一緒に行った出張では遺憾がなくて慌てていたというだけで、仕事に関してはいつもどっしりと構えていたからだ。
「すみません、前に二宮さんが藤沢社長と話をしているところを聞いて……結婚がどうのって」
「……あぁ! そういうことか! なるほどね、ちょっと待って」
少し考え込んで藤沢さんは席を立つとスマホで何か操作をした。ほんの数十秒もしないうちにコンコンと社長室のドアをノックする音が聞こえた。
「お呼びですか、社長。というか、話は終わりました?」
入ってきたのは二宮さんだった。引き継ぎの資料を用意していたのか手元にはいくつかのファイルがあった。
「あぁ、それはまだなんだけど。申し訳ないんだけど、この間の前撮りの写真って見せられる?」
「? ありますけど……どうするんですか?」
「ちょっと、ね……」
二宮さんは藤沢さんと私を見比べたあとに「あぁ、そういうことですか」と納得した様子でスマホを取りだした。ロックを解除し操作をするとスマホをそのまま藤沢さんに渡した。
(そんなもの、見せられたくない……)
二人が仲良く写っている写真を見せてくるなんて、藤沢さんは酷い人だ。でもこうして酷くした方がすっぱり諦めてくれると思っているのなら、それは正解かもしれない。頭の良い人の考えること違う。
「あぁ、これこれ。はい、これ見て」
「……見たく、ないです」
これが私にできる精一杯の抵抗だった。見たくないという気持ちと見ないと諦められないという気持ちがぐるぐると頭の中で渦巻く。