極甘社長にほだされても二度と秘書はやりたくない
京都に着くとタクシーで客先に向かった。
名刺も何も持っていない状態だったけれど、かなりトラブっていたようで挨拶もそこそこに本題に移った。
アルカトラズの在庫システムを使用しているお客さんで、社内のITのスタッフが停電対応を忘れていたため、サーバに保存されていたデータが飛んでしまったとのことだった。
「あ、もしもし、宮川? 今こっちで状況確認できたんだけど……うん……」
藤沢社長は客先のサーバルームに取り付けられているコンソールの画面を叩いていく。
(社長って偉そうに指示するだけだと思ってたけど……藤沢社長は違うんだな……)
スマホをスピーカー設定にして本社にいる「宮川」という人と通話しながら復旧作業に取り組む社長の横顔に見とれてしまう。
「坂井さん、お客さんにいつまでのデータが閲覧可能か確認してきてくれる?」
「あ、はい! いってきます!」
私はといえば状況確認を随時して欲しいということでお客さんと藤沢社長との連絡役として走り回っていた。
在庫システムが正常に動かないと出荷もできないわけで工場内はピリピリとしている。
そんな空気の中、正確に仕事をこなさなければと私も丁寧に状況確認をして伝えた。
「あ~、このデータが破損してるのか……。バックアップから戻せるか、試してみるしかないね」
黒い画面を見ながら何やら打ち込みをしている藤沢社長の眼差しは真剣だ。
他にできる事が無い自分がもどかしい。
「落ち着かなくてごめんね。多分もう少しで終わるはずだから、もう少し待ってて」
「いえ、私こそ何もできなくてすみません……」
「問題ないよ。こういうトラブル対応は人がいればいるほど誠意が伝わるしね」
ふっと安心させてくれるような笑みに少しだけほっとする。
巻き込まれたと思っていた気持ちは、いつの間にかなんとかしたいという気持ちに変わっていた。
「よし、これで多分ある程度は復旧したはず……。坂井さん、一緒に確認にいこう」
「はい!」
しばらくするとほっと息を吐いた藤沢社長が目元をつまんだ。ずっと画面を見ていたから疲れたんだろう。
お客さんに確認をしてみると、なんとか業務ができる状態には戻ったとのことだった。
システムも保守の範囲内ではあるけれど、ありがとうとお礼を言われると少しだけ暖かい気持ちになった。