極甘社長にほだされても二度と秘書はやりたくない
期間限定で秘書の仕事を承諾すると、山田さんから業務で使用するノートPCを渡された。これがないと仕事が始まらない。

「オフィスの案内もまだだったよね。一通り案内するよ」

藤沢社長直々にオフィスの簡単な案内をしてくれた。気になったのは小さなカフェテリアで、無料でコーヒーやカフェラテが飲めるらしい。それからは各部署を回り、社長室へと向かった。

「ここが秘書のデスク、それから目の前が社長室。しばらくは社長室で仕事してもらおうかな。色々教えたいこともあるし」
「わかりました……」

社長室は、磨りガラスでスペースが区切られているだけで、完全な個室という感じではない。少しだけ他の部からは離れていて静かな場所だ。それに窓から見える新宿のビル群も悪くない。

「あ、それから契約書と名刺とか書類関係はここの棚にしまってあるから。じゃあ業務の説明からはじめようか」
「お願いします」

恐らく細かい仕事はたくさんあるのだろう。けれど二宮さんが戻ってくるまでの間はスケジュール管理と同行の必要があった場合の付き添いをお願いしたいと言われた。その他にも社内イベントやプレスリリースなどがあると広報と連携して仕事をすることもあるらしい。ただ、これは二宮さんが戻ってくるまでの間にやることはないので気にしないでいいらしい。

「業務で使用してるのは汎用ソフトだけど、うちで開発したソフトも社内で使用してるんだ。そのあたりはまた時間取って説明するね」
「はい、ありがとうございます」

自社で開発したシステムをちゃんと自社で試験的に使っていると対外的に信頼性も担保できる。それに優秀なエンジニアがいるのだろうということはなんとなく理解できた。

「一通りはこんな感じかな。何か質問ある?」
「そうですね……今のところは大丈夫そうです。分からないことがあったら聞くようにします」
「そんな気負わなくていいよ。2週間ぐらいの話なんだから」

目を細めて笑顔を作った藤沢社長を見て少しだけほっとする。転職して早々社長と一緒に仕事をするなどと思ってもいなかった。自分の中でも戸惑いはまだ少しだけ残っている。

「そういえば、今日もキャリー持ってるんだね」
「あ……これは……」

よくよく考えればどこか駅のロッカーにでもしまってくるべきだった。姉と落ち合えず今は落ち着ける部屋もない。それこそ今日もどこで寝泊まりしよう状態なのだ。どう説明しようか迷っていると藤沢社長が顎に手を当てて考え込んだ。

「何か、困ってることでもあるの?」

ドキリとした。私の人生、前職のことがあってから困りっぱなしだ。この際、洗いざらい話してしまった方が楽なんじゃないかとさえ思う。

(でも、それよりも……)

そこまで考えて、この状況を取引に使えるのではないかと思っていた。期間限定で秘書をやる代わりに、ウィークリーマンションを契約してもらうとか、借り上げの社宅がないかとか、そういったことは確認できるはずだ。

(多分、そういう制度なかったとは思うんだけど……ダメ元だ!)

こうなったらどうにでもなれと思い切って相談することにした。
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