愛なんて要らないから
だけど、次の蹴りを覚悟して目を閉じていても、なかなかその次がくることはない。
「女の子に暴力なんて、クズだね〜」
その代わりにそんな男の人の声が聞こえてきて、私は思わず息を呑んだ。
だって、この声を私は覚えている。
一夜しか一緒に過ごしていないけど、私の中で忘れることのできない存在の人。
「なんだよ、部外者は邪魔すんな」
「部外者じゃなくて、知り合い。知り合いを守るのは当然のことじゃない?」
顔を上げると、大和は首の後ろを掴まれて身動きがとれない状態になっていた。
「皓太、さん……どうして……」
「ピンチの匂いがしたから、なんてね」
あの夜、出会った時と同じように、人当たりのいい笑みを浮かべているけど、そのあと大和に向けた視線は怖いくらいに冷たい。
「いい加減、放せ……!」
皓太さんから逃れようとジタバタ動く大和に対して、全く怯む様子のない皓太さんが、パッと手を離すと、大和は弾みでよろけてバランスを崩して地面に転がった。
皓太さんはそんな大和に目を向けることなく、私に手を差し出してくれて、その手を取ると優しく身体を支えて立たせてくれた。
「あ、警察を呼んであるから。周りでも動画を撮ってる人が何人かいたから、証拠として出してくれるんじゃない?美羽ちゃんとは知り合いみたいだし、逃げても被害届を出したら捕まるよ?」
皓太さんは冷めた目で大和を見下ろして、そう話した。