愛なんて要らないから
バーの入口で足を止めると、背中に手を添えた皓太さんに促されるような形で店内に足を踏み入れた。
前に来た時と同じように、可愛らしいベルに出迎えてもらい店内に入ると、今日はまだ一人もお客さんは入っていないようだった。
「あれ、あなたは……」
バーテンダーの陽さんが、私の顔を見るなり少し驚いた顔をした。
その反応を見て、着ている服に視線を落とせば、アスファルトで擦れた汚れや、靴跡のようなものがついていていた。
咄嗟に頭に手を伸ばせば、髪はぐしゃぐしゃに乱れていて、慌てて髪を整えながら皓太さんの陰に隠れた。
「知り合いと喧嘩しちゃったみたいで、ちょっと休ませてあげてくれる?」
「もちろん。今日は店を閉めましょうか?」
「いや、そこまでしてもらうわけには……」
今はお客さんが誰もいないからといって、私一人のためにお店まで休みにしてもらうのは流石に申し訳ない。
ひとまず皓太さんと並んでカウンター席に座ると、陽さんは温かいおしぼりを用意してくれた。
ほかほかのおしぼりを手に取ると、妙に安心して、張り詰めていた気持ちが少し落ち着いた気がした。