愛なんて要らないから


「あの……赤ちゃんって?」

 それが本当の話であるなら、私はその話をきちんと聞いておきたい。

 本人が目を覚まさない以上、悠のことを知るためには、妹さんと萌ちゃんの二人から話を聞くしかないから。

「二人が大学時代の話です。それに赤ちゃんはもういません。その妊娠だって萌ちゃんが強引にお兄ちゃんを襲ってのことで。それ以来、お兄ちゃんにはもう関わらないって約束だったのに、いつまでも付き纏っていましたよね」

「強引?あの時、私たちは付き合っていて、恋人なら当たり前のことをしただけなのに?」

「萌ちゃんはいつもそう。お兄ちゃんの気持ちは関係ないの?ずっと萌ちゃんに振り回されていたお兄ちゃんが、やっと解放されて美羽さんと幸せになると思ったのに……」


 妹さんの話を聞いていると、なんとなく二人がどんな関係だったのか分かった気がする。

 萌ちゃんの一方的な想いが暴走してしまっただけで、悠はやっぱり裏切ったりしていなかったんだ。

 少しでも悠を疑ってしまったことに対して、私はさらに後悔する気持ちで胸がいっぱいになる。


「美羽ちゃんと悠が幸せになるなんて許さない。私の方がずっと前から悠のことが好きだった。ずっと悠のそばにいたんだから……そして、これからもずっと一緒にいるの」

 静かにそう呟いた萌ちゃんは、次の瞬間、持っていた鞄の中からナイフを出した。




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