愛なんて要らないから
「悠は渡さない……悠がもう目を覚まさないなら私も一緒に死ぬ。そうしたらずっと一緒にいられるもん」
両手でナイフを握り、愛おしそうに悠を見つめる萌ちゃんの横顔はとても儚げで綺麗に見えた。
「あ、いや……や、めて……」
妹さんは震える声でそう言うと、恐怖からその場にぺたんと座り込んでしまった。
「悠、大好き。悠と赤ちゃんと私、家族三人でずっと一緒にいようね」
眠っている悠に優しく笑いかけて、悠の心臓の辺りにナイフを向ける萌ちゃん。
そんな萌ちゃんを、私が止めなければ。
だって、もし妹さんの言っていたことが本当だとしたら、きっと悠は萌ちゃんと一緒にいることを望んではいない。
悠が一緒にいたいと望んでいるのは私。
だから、もうこれ以上は萌ちゃんの好きになんてさせてあげない。
「萌ちゃん。残念だけど悠が一緒にいたいと望んでいるのは私だから。だから、ごめんね」
私は萌ちゃんのナイフを持つ手に自分の手を重ねると、思い切りそのナイフを自分の腹部に刺した。
この行動に迷いなんて全くなかった。
もしこれで死ぬことができたら悠とずっと一緒にいられる、なんて。結局は私も萌ちゃんと同じことを考えてしまったから。
ただ、大好きな人と一緒にいたいだけ。
私の願いは、ただそれだけなんだよ……。
じわりと痛みに襲われた私は、ナイフから手を離して震えている萌ちゃんの姿を最後に目を閉じる。
目を閉じていると真っ暗な闇の中で、悠の「ごめん」って囁く声が聞こえた気がした……。