星降る街のリトルウィッチ

第二章

「レイは物じゃない!」

ミナの声が夜の森に響いた瞬間、手の中の星が強く輝いた。

まるで、心の奥を見透かすみたいに。

「……その光」

黒いマントの男が一歩引いた。

その隙に、レイがミナの手を引く。

「逃げよう!」

「う、うん!」

二人は夜の森を駆け抜けた。枝が頬をかすめても、息が切れても、止まらなかった。

やっとのことで森を抜け、星降る街の灯りが見えたとき――

ミナはその場に座り込んだ。

「はぁ…はぁ…こわかった……」

レイは少し離れた場所で立ち止まり、空を見上げていた。

その横顔は、どこか寂しそうで。

「……ねえ、レイ」

「なに?」

「あなた、本当に何者なの?」

しばらくの沈黙。

やがてレイは、小さく口を開いた。

「僕は……“願いの星”なんだ」

「願いの、星……?」

「誰かの強い願いが形になった存在。だから――長くここにはいられない」

ミナの胸が、ぎゅっと締めつけられる。

「どういうこと?」

「願いが叶えば、僕は消える」

その言葉は、あまりにもあっさりしていた。

でも――

ミナの中では、大きすぎる意味を持っていた。

⸻

次の日から、ミナは変わった。

前よりよく笑うようになって、前よりよく話すようになった。

まるで、時間が足りないみたいに。

「ねえレイ!このパン屋さん美味しいんだよ!」

「昨日も来たよね?」

「いいの!美味しいから!」

「……ふふ、変なの」

レイも、少しずつ変わっていった。

無表情だった顔に、笑顔が増えた。

ミナの隣にいる時間が、当たり前になっていった。

⸻

ある夜。

二人は丘の上に座って、星空を見ていた。

静かな時間。

風が、優しく吹いていた。

「……ねえ、ミナ」

「なに?」

「君の願いって、なに?」

ミナは少し驚いて、それから笑った。

「いっぱいあるよ?」

「例えば?」

少し考えてから、ミナは言った。

「もっと強くなりたい」

「それから?」

「大切な人を守れるようになりたい」

「……それから?」

ミナは、少しだけ黙った。

そして――

小さな声で言った。

「……レイと、もっと一緒にいたい」

その言葉に、レイの心臓がドクンと大きく鳴った。

「……それは」

言いかけて、やめる。

言ってしまえば、終わってしまう気がした。

⸻

その夜。

レイはひとりで街を抜け出した。

「……願いは、もう分かってる」

空を見上げる。

星が、ゆっくりと流れていく。

「でも、それを叶えたら――僕は消える」

ミナの笑顔が浮かぶ。

怒った顔も、泣きそうな顔も。

全部、大切だった。

「……どうすればいいんだよ」

初めてだった。

こんなふうに、迷うのは。

⸻

次の日。

ミナはレイの姿を探して、街中を走り回っていた。

「レイ……どこ……」

胸の奥がざわつく。

嫌な予感が、消えない。

そして――

あの森へと、たどり着いた。

⸻

そこには、レイがいた。

そして、あの黒いマントの男も。

「見つけたぞ。“願いの星”」

「ミナ……来ちゃダメだ!」

「嫌だよ!置いていかないで!」

ミナは走った。

ただ、レイの元へ。

そのとき――

空から、ひとつの大きな星が落ちてきた。

それは、これまでで一番強く、まぶしく輝いていた。

⸻

それはきっと、

“恋”という名の願い。
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