せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

「簡単な煮込み料理でもいいかい? お肉とお野菜をゴロゴロ入れた……ああ、木の子もほしいね」
「ねえ、それ、本当に簡単なの? 煮込みに時間かかるんじゃない?」

 ジェシカは心配そうだ。
 だが、ハンスは自信たっぷりに微笑む。

「心配は要らないよ。魔法で煮込み時間を短くするつもりだから」
「えっ、そんな魔法があるの? 私も知りたいわ」
「また時間があるときに教えてあげるよ」
「ありがとう。楽しみにしてるわ」

 ジェシカと一緒にキッチンに立つ──
 いかにも仲のいい夫婦みたいな絵を思い浮かべる。

(どうせなら、一緒に料理をしながらがいいな)

 むしろハンスのほうこそ楽しみである。

 購入した食材は、セシルとジェシカが運ぶことを申し出てくれた。
 ハンスは少し考えて、そうしてもらうことにした。
 ハンスが全て持ってしまうことを、ジェシカはおそらく好まないだろうと判断したからだ。

(今後、家事もそれほど負担ではない範囲で分担してもらったほうがいいかもしれない。セシルにもお手伝いを頼んで……)
 
 ふたりにとっては、お客様待遇よりもそっちのほうが居心地がいいだろう。

(家の中にふたりの居場所を作ろう)

 背中から夕陽が射す。
 地面には、長さの違う影が3つ並んだ。
 ほしかったのはこれだ、と思った。
 ジェシカと再会してからこの風景を望んでいた。

 潜在的には、祖父母の家から魔法学校に通っていた頃からかもしれない。

(ああ、ようやく叶った)

 とはいえ、浸っているだけではいけない。
 まだ不確かな関係でしかないのだから。

 と、小さな段差があり、影が不安定に揺れた。

(ほら、やっぱり確実なものにしなければ)

 改めて決意を固めた──

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