せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです
「さあ、入って。今日から君たち家だ」
「わーい、ただいま」
セシルははしゃぎながら中に入る。
ジェシカもセシルのあとに続く。
ハンスは最後に入り、ドアに鍵をかけた。
そうして奥に進もうと振り返ったとき、
(おや?)
今まで住んでいた家とそっくりな、でも異なる家に帰ってきたように錯覚した。
こっちの家は明るく、空気も温かい。
その理由であるふたりは、廊下でハンスのことを待っていた。
「ハンス先生、どうかしましたか?」
「ううん、何でもないよ。さあ、こっちにおいで」
向かった先は、ダイニングルームでも書斎でもない。
この官舎に引っ越してきたときから、ハンスの中でセシルの部屋にしよう、と決めていた部屋だ。
しかし、そうとは言わないで、ジェシカとセシルを案内する。
「ひとまず、ここをふたりの寝室とすることでいいかい? 客室として用意した部屋なんだけど、まだ誰も使ったことがないんだ」
ベッドは2台置いてある。
毎週末、『このまま、ここに住まない?』と誘ってきた。
ジェシカが本当に承諾してくれるとは思っていなかったが、万一のために、ふたりが泊まれるように用意していたのだ。
婚姻届を出せた暁には、ジェシカのベッドを自分の寝室に運び、ここは当初の予定通り子ども部屋とすればいい。
とてもではないがジェシカには明かせない。
が、とうにそこまで計画済みである。