せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

 相談するまでもなかった。

「ねえ、魔法で鍋に圧力をかけるのはあなたのアイデア?」
「いや。カレッジの寮に住んでたときに先輩に教えてもらった。寮でも代々受け継がれてたし、昔から割と普及してる魔法だと思うよ」
「なら、商品化してマズいことはないかしら? そういう圧力をかけられる魔法の鍋が、一家に一個あったら便利じゃないかと思うんだけど」
「何の問題もないよ。魔法は使ってないけど、圧力をかける調理設備は世の中にはすでに存在してるんだし」
「そうなの⁇」
「業務用しかないけどね。魔法を組み込んだ、家庭用の小型のものを作るのはいいアイデアかもしれない」
「そうよね!」

 圧力をかける魔法は、第七班の皆にも難しくないはずだ。

「また一緒に考える?」
「ううん、今回は『就業時間内でいい』って工場長から言われてるの。それに、第七班の皆に意見を訊きながらやってみたいわ。第七班の商品になるんだし」
「いい考えだと思うよ」
「でしょう? 皆も自分たちで開発した製品なら、ますます仕事にやる気がでると思うの」

 ハンスは、ジェシカの様子を探りながら訊ねた。

「……君は、これからも魔道具工場で働きたい?」

 ジェシカはきょとんとする。
 あまりに唐突過ぎる質問。
 その意図が読めない。

「私にできる仕事は限られてたから魔道具工場で働き始めただけだけど、今は仲間ができてそれなりに楽しくやれてるわ。どうしてそんなことを訊くの?」
「仕事、辞めること考えてみないかい?」
「ええっ⁉︎」

(それは家庭に入ってほしいという意味?)

 確かにこの家では、穏やかな気持ちで暮らせている。

(だからといって、仕事を辞めて、日中はずっとひとりで?)
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