せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

25. ハンス不在

 翌朝、ジェシカはヨルデンへ赴くハンスを見送ってから、仕事場へ向かった。
 ハンスが数日はいないと思うと淋しさを覚える。
 少し前まで週末に会うだけだったにも拘らず、ハンスがすでに家族のような存在になっていたことに気づいて驚いた。

 就業開始のベルが鳴る。

(さあ、私は私でがんばらなくちゃ)

 作業に取り掛かろうとしたときに、班長がやってきた。

「ウォルコットさん、昨日工場長から話のあった件だけど、今から少し話そうか」

 その瞬間、第七班のメンバーたちは班長とジェシカのほうを気にして、作業速度がガクンと落ちた。
 これには班長もジェシカも苦笑いだ。

「皆さんは作業に集中してください。工場長から言われたように、生産数を維持すること」

 皆の集中を乱さないように、建屋の壁際に移動することにした。

「工場長はかなり期待を寄せているみたいだし、皆も、」

 と班長が第七班のほうを見やると、何人かはまだこっちを気にして見ていたらしく、慌てて下を向き作業を再開する。

「ほら、あの通りだ。だから、過度にプレッシャーを感じたりはしてない?」
「ご心配ありがとうございます。でも、私は大丈夫です」
「そうみたいだね。顔を見れば分かるよ。でも、気負い過ぎは禁物だからね」
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