せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

「あったわ。ここと、ここよ」
 
 ジェシカは、ハンスに該当箇所を読んで聞かせながら、持ってきた紙に書き写し始めた。
 図書館の本は盗難を防ぐために、貸し出しをおこなっていないからだ。
 館外には持ち出せない魔法がかけられている。

「ふたつの魔法を組み合わせる方法は分かる?」
「たぶん。だって、この前ママが教えてくれたもん」
「なら、お家に帰って、実際にやってみようね」

 そうと決まれば、さっさと退散だ。
 講演会までまだまだ時間はあるが、長居をする理由もない。

 ところが、児童書コーナーの近くを通りがかったとき、職員から声をかけられた。

「今から絵本の読み聞かせ会をしますので、よかったら参加しませんか?」
「ママ、行ってもいい?」

 シンママゆえに、セシルには日頃、我慢させていることが多い。
 それに、魔法以外もぜひ学んでほしい。
 この少ない機会をムダにしたくないと思った。
 絵本の読み聞かせなら、長くはかからないだろうと踏む。

「いいわよ」
「やったあ!」
「では、お子様のみ、こちらのお部屋にどうぞ。お母様は終わりになったら迎えに来てくださいね」

 セシルは、花柄の壁紙が可愛らしい小部屋に入っていく。
 ジェシカは、セシルを見守ったまま、一歩、二歩……とゆっくり後退していく。

(あの子ったら、本当にうれしそう……)

 と、そのとき、後方にいた人物にぶつかってしまった。

「あっ、ごめんなさい!」

 それほど強くは当たっていないが、咄嗟に振り返った。
 ジェシカは目を瞠った。
 ぶつかった相手は、ジェシカが会わずに済ませたいと願った人物だった。

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