せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです
ここにハンスが来る頃には、自分たちはあのボロ下宿に帰っている。
ジェシカとセシルに接点が生じることは、今後は二度とない。
あれが最後だ。
(そう思うと、ハンスの成功を知ることができてよかったわ)
途端にジェシカは冷静になる。
「ママ、どの本を調べたらいいの?」
「待ってね……」
ジェシカはもうセシルのことしかしか見ていない。
「まずは封筒にシールをすることができる魔法を見つけようね。その次に、指定した人物が触れると、魔法を発動させる方法を探そう。このふたつを組み合わせればいいはずよ」
まだ簡単な文字しか読めないセシルに代わって本を探すのは、ジェシカの役割だ。
セシルはジェシカの横にぴったりとくっつき、ジェシカと一体となって歩く。
ジェシカが書架から本を取り出す度に、一生懸命覗き込もうとするから、ジェシカはしゃがんでセシルにも見えるようにページを捲ってやった。
そうすると、挿絵や図を熱心に見入るのだ。
それにしたって難解なはずなのに、もちろん完璧でないにしろ、ある程度は感覚で理解してしまう。
それは、ジェシカにはできないことだった。
ジェシカは逆で、まず解説文を読解し、それから図の意味するところを理解する。
子どもの頃からずっとそうだ。
どちらがいい、ということはないと思う。
けれど、道理で、と思う。
これなら、同級生の誰よりも理解が速かったし、うまく言語化できない魔法すらも使えたわけだ──