私を言葉で抱く年下作家の溺愛
何も言えない。言えなくなる。

彼は少しだけ腕の力を緩めて、顔を覗き込んだ。

「今だけだから」

静かに言う。

「落ち着いたら、どこか行こうか」

一瞬、間を置く。

「温泉とかいいじゃん」

——その未来。思い描いてしまう。つい。

「今度の連休、空けておけよ」

その言い方が。あまりにも、いつも通りで。

あまりにも、優しくて。泣きそうになる。

「……蓮」

名前を呼ぶと、彼はすぐに応えた。

「なに」

言葉が出ない。代わりに。

少しだけ、彼に寄りかかる。

それだけで、全部伝わる気がした。

「寂しい思いさせて、ごめんな」

低く、優しく言われる。その声に、胸がほどける。

唇が、重なる。でも——どこか、寂しい。

温かいのに。満たされるはずなのに。

少しだけ、足りなかった。
< 105 / 150 >

この作品をシェア

pagetop