私を言葉で抱く年下作家の溺愛
自分に言い聞かせるように。

はっきりと。そして、踵を返そうとした、その時。

「梨沙」

——心臓が、止まりかけた。ゆっくりと顔を上げる。

そこにいたのは、蓮だった。

言葉が出ない。ただ、立ち尽くす。

思考が追いつかない。なんで、ここに。

どうして、こんなタイミングで。

逃げなきゃ。

そう思った瞬間、体が先に動いた。背を向ける。

でも——

「待って」

腕を、掴まれる。強く。逃がさないように。

「……離して」

振り返らずに言う。声が、少しだけ震えていた。

「今夜」

彼の声が、すぐ近くで落ちる。

「あんたの好きな、すき焼きにしようか」

——その一言。胸が、強く締めつけられる。

思い出す。鍋を囲んで。彼が、私の皿に肉をよそってくれたこと。
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