私を言葉で抱く年下作家の溺愛
何も言えない。ただ、苦しい。

「な」

少しだけ、優しい声になる。

「何でもなかったみたいにさ」

間を置いて。

「俺の家、来ればいいよ」

——簡単に言う。あまりにも、自然に。

まるで。何も変わっていないみたいに。

「……ごめん」

やっと、言葉が出た。小さく、でも、はっきりと。

そして、私は、彼の腕をそっと外した。

顔は見ない。見たら、終わるから。

そのまま、歩き出す。

一歩。また一歩。離れていく。

でも——背中に、彼の気配が残る。

振り返りたくなる。止まりたくなる。

それでも、足は止めない。止められない。

家に帰る。静かな部屋。

誰もいない。当たり前なのに。

やけに、広く感じる。
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